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【記事】活躍する社員のリテンション

 「活躍する社員のリテンション」

どの企業にとっても無視できない雇用問題。特に活躍する社員の退職は企業の業績に直接ダメージを与えるだけでなく、職場の士気や生産性の低下など、著しい影響を与えます。活躍している社員をいかに引き止め、長く活躍してもらうか?
この記事では具体的な考え方についてお伝えいたします。

 個人業績に応じた評価/等級制度の導入――― 本当にそれが正解ですか? 

「最近若い人、特に活躍しているメンバーが退職していく・・・。
シンガポール人の考え方に合わせて人事制度の見直し(職務内容、目標の明確化、等級制度の変更など)を考えているのだけど・・」と、日系企業ダイレクタークラスの方々から相談を受けることがあります。
私としては、その打ち手は「正解」でもあり、「不正解」でもあると思っています。
なぜなら、「その企業の目指す方向やEmployee Value Proposition(EVP: 企業が従業員に提供する価値)次第」だと言えるからです。
私自身も組織のマネジメントをしながら、トップパフォーマーの退職に直面する度に自らにも問うていることですが、「うちの会社の、そして私の部署のEVPは何か」という認識をあらためて確認します。

皆さまの会社のトップパフォーマーは何を期待して、御社に入社したのでしょうか?皆さまの会社の何に満足して今まで働きつづけてきたのでしょうか?  その答えを考えることが、活躍する社員のリテンションの第一歩につながるのです。

Employee Value Propositionとは何か

Employee Value Proposition(EVP)は日本語では「企業が従業員に対して提案する価値」という意味になります。
マッキンゼー・アンド・カンパニー執筆「ウォー・フォー・タレント」(2001年)という書籍をきっかけに有名となった概念です。

企業は従業員に対して成果を求めますが、従業員も企業に対して処遇などの待遇面やキャリア構築などで期待することがあります。
会社が「どのような価値を社員に提供しているか」を分かりやすく言語化することで、従業員のモチベーション管理や離職防止、対外的なアピールにもつながります。企業がEVPを高めることにより、優秀な人材を引き付け、長く活躍してもらい、社内の人材パフォーマンスを最大化することで、結果としてより高い業績をあげていくことができるという考え方です。

EVPを高めていくステップには、1.現状の把握、2.Valueの明確化、3.Valueの強化と伝達 があります。

ステップ1、現状の把握

まず、現在活躍している従業員は会社の何を魅力に感じて働いているかの理解が大切です。
いくつか網羅的な質問項目をつくり、社内でサーベイを実施して数値化してみましょう。
例えば、「自分の業績を反映した報酬」への期待度、満足度を5段階で評価してもらう。
様々な切り口から質問項目はつくれますが、戦略、事業、仕事、風土、人材、環境、待遇などが一般的です。

また、企業としては、どんな人に活躍してもらいたいか、活躍している人はどんなことを期待しているのか、そのような視点から会社は何を提供すべきかについての方向性を確認し、項目を抽出ていきましょう。

ステップ2、Valueの明確化

ステップ1から会社のEmployee Valueを発見したら、社員へのインタビューを経て、Valueを自社のオリジナルな表現で言語化します。
例えば、JAC Recruitmentの場合「親しみやすい仲間」「チームワーク」「親身で、スピード感のある対応」「業績に応じた報酬体系」
といったキーワードに特徴が現れます。

この特徴こそが、今活躍する社員たちが入社した理由でもあり、働き続ける理由となります。
それらのValueは、自社の強みであり、今後も磨きつづけるべきValueです。

留意点として、外資系大手で働く人材と日系企業で働く人材が感じる魅力が異なる点です。
外資系大手エージェントの調査によると、シンガポール人が重視する項目は、トップ3が

①業績に応じた金銭的報酬
②リーダーシップがあり、モチベーションを高めてくれるマネージャー
③研修など能力開発の機会、です。

一方で日系企業を対象とした調査からは、日系企業で働くメリットは、
①自社の製品・サービスが良い
②雇用が安定している
③知名度がある・イメージが良い
④組織の規律やマナーが良い、⑤法令順守の姿勢が強い、です。

ステップ3、Valueの強化と伝達

自社の魅力の言語化ができれば、それを磨き、活躍している社員にも伝えていくことが大事です。
その魅力が活躍している社員の期待に沿えているのであれば、他社に転職しない理由となるからです。
「伝える」というのは言葉で伝えるだけでなく、施策や仕組みをもって伝達していくことです。
制度化し、可視化できるようにすることが重要です。
例えば、家族的な風土を強みとしてもつ企業なのであれば、Family Dayなど、従業員の家族も巻き込んだイベントの企画などは、強みをより強化していくことに繋がります。
一方、プロフェッショナルな風土で実力や個人業績とそれに伴う報酬を強みとする企業なのであれば、昇給昇格の頻度を増やす、個人に応じたインセンティブ制度を充実させるなどによってさらに強みを伸ばしていくことができます。

さて、冒頭の「シンガポール人の考え方に合わせて人事制度の見直し」はするべきか否か。
それは、皆さまの企業のEVPにマッチしているのか次第です。

世間一般的に言われる金銭報酬を第一とするシンガポール人のイメージと、皆さまの会社のシンガポール人は違う可能性があります。
「社外」のベストプラクティス導入を検討する前に、「社内」の現状把握から進めてみることをお奨めします。

ミクロの視点も大切に ~従業員一人ひとりに向き合う

EVPはダイレクターや人事の方々が「マクロな視点」で活躍する社員のリテンションを考えていく上で役に立つアプローチです。

一方で忘れてはならないのは「ミクロな視点」。私たちの目の前にいる社員は、Employeeという集合ではなく、一人の人間。
大きな視点でEVPを意識しつつも、社員一人ひとりとの日々のコミュニケーションがとても大切です。
社員が活躍しているときこそ、本人の社内での次のキャリアのこと、本人のことを評価していること、
仕事だけでなく家族のことプライベートのことも気にかけていること、など十分な1on1の時間をとり、話す機会を増やしていくことが大事だと思います。

ダイレクターやマネジメント職の場合、日本本社や他国拠点、顧客とのコミュニケーションに多くの時間が割かれがちですが、
社内のメンバーとの時間も意識的に確保をしていきたいと、自分自身も自戒の念を込めて感じるところです。

 

参考文献:
JAC Recruitment 2018年度調査資料『アジア人材戦略レポート 日系現地子会社におけるヒトと組織の課題』